タイトルイメージ Vol.13
本文へジャンプ 2005年2月29日 発行

   −できない自分と向き合う
 


自分の「できない」を自覚すると…。 

 すでにできることを、毎日「やらなければならないこと」としてこなしているだけではスキルアップにはつながりません。自分にとってできないことを、どうすればできるようになっていくのかを考えて、それを実践していくのが、セルフラーニングの基本です。「自分はこれができない」と自覚し、「できないままやり続けてみたら、できるようになった」プロセスで、「やればできるんだ!」という実感を得ることができます。まずは、「できない」と言えることから…。

 ■プリントができないからペナルティをつけて!

 今小4のH子ちゃん。小1の8月から算数に苦手意識を持ち始め、私の教室に入会して3年半になります。どうせなら基礎からと、幼児教材から始め、今、4年生教材の最後のところをやっていますから、ちょうど学年相当のところを終えようとしています。毎日1枚やると決めていた宿題のプリントが週に1.2枚しかできなかったり、時によっては、2週間1枚もできないことが続いたりして、けっして早い進み方ではありませんが、ゆっくりと、でも確実に自分の壁を乗り越えてきました。

 そのH子ちゃんの様子が、昨年の秋ごろから少し変わりました。「宿題のプリントができないからペナルティをつけて!」と自分から言い出したのです。

(ペナルティというのは、自分で決めた宿題の枚数ができなかったら、教室で10枚やるなどと、私と相談して決め、宿題ができるようになりたいという気持を後押しすることです。)
それまでも、「できないときにはお母さんの声かけをお願いしてみようか?」「プリントができなかったときには、私に電話する事にしようか。」とか、いろいろな提案をしながらH子ちゃんのできないに寄り添ってきたつもりでしたが、自分から「できないから〜して!」と言うのは初めてでした。
 私は、内心「やったー、やっと自分からできないと言えた。ここからH子ちゃんにとって本当の学びが始まるんだ!」と思い、嬉しくなりました。
 

 ■自分の壁を乗り越える

 小4教材は割る数が2桁のタテ式のわり算(概数のわり算)と、分数と約分が入ってくるのですが、小学校の算数の中でも最初の大きな壁が、この2桁のわり算で、ほとんどの子がここでつまずきます。もとの数を割れるおおよその数(概数)を予測し、実際に割ってみて大きかったり小さかったりした場合には、もう一度割れる数を見つけていく作業は、予測する力や、修正していく力、繰り返していく力が必要になり、多くの子がここで四苦八苦します
 H子ちゃんが「プリントができないからペナルティをつけて!」と自分から言い出したのは、ちょうどこのあたりをやっている頃だったのです。
 なかなか合格しない、だから毎日一枚と決めたプリントが嫌になる、でも、本当は「ペナルティをつけて!」と自分から言い出すぐらいできるようになりたい…。さまざまな葛藤の中で、時間をかけて自分のできない状態とつき合いながら2桁のわり算という大きな壁を乗り越えたのです。


 ■えぇ、何これ、全然分からない!

そして、新しい単元の分数と、約分に入りました、学校でまだ習っていない約分を見ると「えぇ、なにこれ、全然わからない!」と叫んでいました。
 私は、「やったねー、まだ習ったことのないところが出てきて良かったねー。やっとこれから本当の勉強が始まるんだよ。これどうやるかわかる?」「ぜんぜんわかんない!」「裏の答えを見ても分からない?」「あぁ、そうか、何となくわかる!」「じゃあ、今日は全部は無理でも、ちょっとやってみようか?」「うん!」・・・。
「どう、まだわからない?」「うーん、なんとかなりそう!」「そう、じゃあ、宿題は、このプリントを6枚と次のプリント6枚でいい?」「えぇ、6枚で合格するかなぁ?念のために10枚持っていく!」


 ■学ぶ力が生きる力になる瞬間

 そんなやりとりをした後も、また、できない日が続いたりしていますが、以前と違うのは、明らかに自分が毎日できていないということを受け入れ、それを何とかしようと工夫している様子が見えることです。

 そこで、先週教室に来たときに、こんな話をしました。
「H子ちゃんは、小学校1年の時にらくだを始めてもう3年以上になるけれど、らくだをやってみて、いまどう思っているの?」
「らくだを始めた頃、算数は全然できなくて嫌いだったけれど、今はできるようになって、算数は好き!」
「今は、算数は得意なんだ?どうして得意になったの?」
「ずっと、続けてきたから」
「ただ続けたから得意になったと思う?」「うーん?!」
「H子ちゃんは、初めのうち算数ができなかったけれど、自分ができないところから始めて、少しずつできるようになったよね。先週も、難しい4−39のプリントを合格したけれど、合格したのはどうしてだと思う?」「力がついたから!」「じゃあ、その力はどこでついたと思う?」「えぇー、わかんない!?」

 「あのね、合格したというのは、合格したときに力がついたんじゃなくて、なかなか合格しないで、苦労しながら何枚もやっていて、できない日が続いたけれど、でも、あきらめずにやり続けていくところでついたんだと思うよ。だから、合格したというのは、力がついたということが分かったということだけで、本当は、合格する力は、できないで、苦労しながら毎日少しずつでも続けている最中についたんだと思わない?」
「あぁー、そうか!」
 H子ちゃんの顔が、パッと明るくなったような気がしました。

 「できないことができるようになっていく」ということは、「できないことをやり続けていく」ことの先にしかないということなのでしょう。できないことをできないまま学ぶ力は、生きる力そのものではないでしょうか?
 そして、まずは「できない」を認めるところから…


◆2004年12月17日、セルフラーニング研究所の平井雷太さんをお招きして、「学習コーディネーター・実践講座in矢板」を行いました。参加された方からの問いをもとに、平井さんが話されたことをダイジェストでお届けします。

   

 ■ 「教えない教育は0歳児には無理では?」「手間ひまをかけるとは?」

● 教えない教育は手間ひまかけないことではありません。ほったらかしでも、付きっきりでもない関わり方があるんです。例えば、幼児で書くことを始めた子については、書き順がおかしいなと思ったら、「これはどこから書くんだっけ?」などと声をかけます。「最低限何を伝えたいと思っているのか?どこで何を言うか?」ということを常に意識しています。この幼児の場合は、書く順番だけが伝わればいい。何を言うか言わないかは、伝えるを意識していれば選べます。何歳からということではなくて、子どもは皆表現力を持っていますから、声を聞き、コミュニケーションをとりながら、自発的にやるように関わるのが教えないということです。

 ■プリントを毎日やるのはどうして大事なのでしょう?

●「毎日やる」を前提にすると、できていないのが見え、問題が浮かび上がるのです。だから毎日続けることが大事なのです。
ある、教室の指導者が子どもに「らくだでどんな力がついたと思う?」と聞いたとき「やりたくなくてもやる力」と答えました。これは言葉を変えると、「深いところでやりたいと思っていることができる力」
子どもは1日1枚やる権利を持っている。いつなんどき、「やりたくない」が「やってみよう」になってもいいように毎日1枚やれる枚数のプリントを渡すのです。
 
■ ペナルティって?

●ペナルティは本来自分で付けるもので、自分育てのための援助。自分にペナルティをかけるしかない。親や先生が与える罰ではなく、できるようになりたいという子どもを援助するまほうのツエなのです。

 ■不登校について

●不登校というのは、「自分の学習の開始時期を自分で決める。」ということで、それだけの問題だと思っています。
 今まではやらされる勉強だったけれど、これからは自分でやることを決める勉強をするということ。先生がいくら、ああしろ、こうしろと言ってもいいなりにならないから問題が発生する。「自分のことを自分で決めている。」という意味で、早い時期に大人になったということ。人から言われて納得のいかないことはやらなくなった。全然悪いことではないと思います。

 指示命令だけで動かない2割の子は人から言われてはやらないけれど、自分で決めたことはやる子。けれど、そういうふうに誰も思っていません。
 問題なのは、8割の子の方。小学校、中学校と、「やらされて、できる」という枠のなかでやっていると、社会に出て、できそうもないことはやらなくなる。これはこれからの社会の最大の問題だと思う。2割の子のことを考えて対応すれば8割の子がさらに可能性を伸ばせます。

 不登校で大事なことは原因さがしをしないこと、親(周りも)が自分を責めないこと。それをすると、起きていることは良くないことだというメッセージが子どもに伝わります。成長するプロセスでものすごく大事なことが起きただけのことで、それをどう活かすかは本人と周りの人です。大事なのは、自分が出来ていないことがわかることだと思います。問題が見えることは大事だけれど、その問題に対して手を打っていくことが大事。らくだではそれができると思っていますし、自分で自分を育むことができると思っています。