タイトルイメージ Vol.14 2005年3月30日


  −自分の質を上げていく

 ■できないことをいけないことだと思っていませんか?

 月に1度開いている「たんたんカフェ」で、参加された方といろいろなお話をしたあとに見えてきた今月のテーマは、「子どもに寄り添う」でした。
 「寄り添うってどういうことだと思う?」という問いに、「子どもが自由にものが言えること」「放ったらしにしておくこととは違う」「見守る感じ」「今のあなたでOKだよ、でもこれからどうしたい?」などの意見が…。
 「寄り添う」ということは、子どものできない状態をよしとして、そこからどうするかを、子どもと一緒に考えていくところから始まります。


■らくだはずるいよね!

 昨年の11月に入会した、今度小1生になるM子ちゃん。ほとんど2〜3枚で合格し3ヶ月ほどで幼児教材、小−1、2のプリントを終え、2週間ほど前から、小1ー3のプリント(+1の足し算84題、目安3分)をやっていまが、ここへきて少し様子が変わってきました。なかなか、このプリントが合格しないのです。はじめてやった日は8分台、その後すぐに6分台になり、5分台になったのですが、その5分台が数日続いています。

 そのM子ちゃんのお母さんから、教室に来る前の日に、電話でこんな相談をされました。
「M子が、『らくだはずるいよね。時間を計らなけきゃいけないし、まる付けもしなきゃいけないし…』って言うんです。どう話したらいいのでしょう?」

 私は、「ずるいよね」というのがどう意味で言っているのか聞いてみたかったのですが、とりあえず「無理にまる付けさせたり、時間を計らせなくてもいいですよ。お母さんは、『じゃあ、今度教室に行ったときに先生に聞いてみようか?あなたが自分で聞く?それともお母さんが聞く?』というふうに確認してみるだけで結構ですよ。」そう、答えていました。

 そのM子ちゃんが今日やってきました。先週宿題を持っていくときに、最低5枚はやると言っていたプリントが1枚しかやってありません。「あらら、4枚もできなかったねー。今日は、その分と合わせて5枚やっていく?」と聞くと、「えぇー、いやだー。」「じゃあ、何枚やる?」「1枚」「じゃあ、とりあえず、算数1枚と国語もやることにして、時間をきちんと計ってやってみようか?」と提案しました。「うん!」

 静かな教室のなかでM子ちゃんの鉛筆の音が響きます。しばらくして、「あれー、時間が短くなったー!」と叫んだM子ちゃん。「どれどれ?」と見てみると、今まで5分台をいったり来たりしていたプリントが、今日は4分30秒ほどでできていました。
 M子ちゃんも不思議そうな顔をしています。今までも一度で合格しない体験は何度もしていたのですが、この1ー3のプリントは7枚目で、急に4分台半ばになったのです。


 ■「なんでらくだのプリントは時間を計ると思う?」

 私は、急に時間が短くなった今なら、時間を計ることの意味を伝えられるかもしれないと思い、M子ちゃんに、こう聞いてみました。

 「ねぇ、なんでらくだのプリントは時間を計ると思う?」
「うーん、わかんない」
「じゃあ、このプリントが合格して、次のプリントにいってもいいよというのは、どうすればわかる?」
「うーん、わかんない」
「あのね、ここに、めやす3分って書いてあるでしょ、これはね、3分59秒までなら合格で、4分以上かかったら、もう少しやった方がいいよっていうことなの。
いま、M子ちゃんは4分30秒だったから、もう少しで合格しそうだけれど、まだ合格じゃないから、もうちょっとこのプリントをやった方がいいよってことなんだよ。
でも、時間を計らないと、そのことが分からないんだよね。競争したり、早くやるために時間をはかるんじゃないんだよ。
まだ、M子ちゃんはこのプリントができるようになっていないから、このプリントをやったほうがいいんだよってこと。すぐにできるプリントならやっても面白くないでしょ。できないプリントをやっているM子ちゃんはすごいよね。」

 どこまで伝わったかわかりませんが、嬉しそうにうなづいたM子ちゃんに、「今週は楽しみだね!」と、宿題の小−3のプリントを渡したあと、一緒に来ていたお母さんに、「先日の電話の件ですが、M子ちゃんとどういう話になっていますか?」と、お聞きしてみました。
「今の話でもういいかなーって思いました。」とお母さん。
 M子ちゃんに話したことで、お母さんにも何かが伝わったのかもしれません。
「じゃあ、また何かあれば、いつでも電話ください。」


 ■自分で判断するために

 らくだ教材は、自分で自分の学び方を決めることができて、どの子もその子なりのペースで学力がついていく教材ですが、自分で自分の状態が分かるように、プリント1枚1枚
すべてに目安時間がついています。
 そして、そのプリントが合格したかどうかを判断する基準として、目安時間の範囲内で、ミス3個というルールがあります。(たとえば、目安3分のプリントなら3分59秒までにできて、ミスが3個までなら合格)
 子ども自身が、ストップウォッチを使って自分で時間を計り、ミスの数を数え、自分の今の状況を知り、次のプリントに進むかどうかを自分で判断できるようになっています。
 しかし、この意味を小さな子どもに伝えることはなかなか難しいことです。とりあえず、今の段階で、M子ちゃんには、「自分の今の状態を知るために時間を計ることが大事」ということを伝えておきたいと思いました。でも、そのためには、「できないことがいけないことと」と思わないことが、とても大事なことなのです。


■全国のらくだ教育ネットワークの方たちから流れてくる考現学を読んでいると、宝物を発見したような気持になることがあります。

 岡山の小西稔子さん(すくーるふたば主宰)が、3 月13 日に行われた、ベネッセコーポレーションの主催するシンポジウム「教育のビジョン」に参加され、宇宙飛行士・毛利衛氏の話されたことを、考現学に書いていましたが、これもその中のひとつです。
皆様に是非ご紹介したいと思い、小西さんの承諾を得て掲載させていただきます。


 ●毛利氏のお話

「地球生命全体の中で自分を考える教育が必要だと思います。生命のもと(ゲノム)が解明され、生命はすべてつながっていることが科学的に証明されました。そのことを学ぶことで、自分が存在していることに、足が震える思いがします。そして、個の挑戦と全体はつながっていることも感じます。

 たとえば、人間が生きていくためには『喜び』『うれしさ』が必要ですが、人間がどんなときに喜びを感じるかというと、新しいことに挑戦して『できた!』という瞬間、そして、だれかが『できた!』という瞬間に関わったとき。人のDNAの中には、種を繁栄させていくことが喜びになるような細胞がインプットされているのです。

 人が何かに挑戦する姿は他の人の共感を呼びます。たとえば、イチローが最多安打記録を打ちたてた瞬間には、日本だけでなく、世界中の人が喜び、勇気や希望を感じました。だからといって、みんながイチローのようになる必要はなく、自分ができる範囲で何ができるかに、常に挑戦していくそのことが、全体への貢献へとつながっていくのです」。
 
   

  ●小西さんの感想

 毛利氏の宇宙から地球を見た体験や、何億年もの歴史の中での今の地球を常に考えておられることなどから、現在の状況をみるスケールが時間的にも空間的にも、とてつもない大きいことが感じられ、そのような視点を持つことができたことも、今回のシンポジウムの一つの収穫になりました。

 そして、今回のシンポジウムに参加して、私自身がとらえた「教育のビジョン」とは、「一人ひとりが自分の能力を最大限にいかしていくこと、自分の質を上げていくこと」「できれば人が自分の能力を生かすお手伝いをしていくこと」。そして、そのことが、「人類のレベルを上げることに貢献していく」ということとつながりました。
 
 今度、子どもから「なぜ勉強しなければいけないの?」と聞かれたときに、「勉強するのは、人と競争するためでもなく、試験のためでもなく、自分の力を最大限に生かすため。そして、自分の質をあげるため。そのことが自分だけのことではなく、人類のレベルを上げていくのだから」と言ってみると、どんな反応が返ってくるでしょうか。

 そして、何かを発明したり、記録を打ち立てて人類に貢献する、ということだけでなく、人が真剣に何かに挑戦している姿を見ることで、周りの人がそれに共感し、そのことで周りの人にエネルギーを与えていくのだということは、日ごろから実感していることです。

 教室の生徒さんたちが、次のプリントに向かうときには、常に訪れる瞬間です。自分の今の力よりも、ちょっと難しい次のステップへいくときに味わう体験、自分の力の限界を少し超えようとする挑戦、その瞬間を積み重ねることが、自分だけでなく、人類のレベルをあげていく。毛利さんの影響でちょっとスケールが大きくなりすぎましたが、そんなことを考えたシンポジウムの時間でした。



 ■考現学 
 
日々の生活の中で、ふっと気づいたことを、考えずに、毎日、人に伝えることを前提に書く。書いたものは、誰かに見せて赤入れしてもらう。そして、発信する。その人の経験から、その人の言葉が生まれる。