タイトルイメージ Vol.17
本文へジャンプ 2005年6月29日 


  −自分の苦労を自分で引き受ける−


その子なりの育ち方・その子なりの学び方

 
私の教室で学ぶ生徒(子どもだけでなく、大人の方もいるのですが)を見ていると、身体の成長だけではなく、学び方についても、それぞれに固有の学び方があるのだと実感する場面に出会うことがあります。
 親にできることは、他の子と比較して一喜一憂しながら子どもを見るのではなく、自分の子の固有の学びに寄り添い、プロセスは違ってもその子なりに絶対に成長していくと信じ続けていくことではないでしょうか。

●発育曲線の平均範囲に入らない我が子

 私のところで、月に一度開いている「たんたんカフェ」、今回は7月24日に真岡で開かれる次世代育成支援講座(テーマは、「子育て不安から生きる安心へ」ゲストは「子育て革命」(中公新書)著者・社会学者 品田知美さん)の準備会も兼ねて行いました。参加者のおひとりのTさんは、自分の子育てのときのことを、次のように書いてきていました。

 「母子健康手帳」と聞けば、「最低限あれだけは目を通し、記入を怠ってはいけないもの!!」と受け取り、長男が生まれたばかりの頃は、毎日のように何度も開いていました。何をそんなに気になっていたのかと、今振り返ると、発育曲線の平均範囲である緑色の中に1日でも早く息子の身長と体重を増やして、私が安心していたかったのかなと思います。
 ですからお医者さんと看護師さん以外に母子手帳を見せるのは抵抗があり、発育曲線の平均値に達しないわが子を見て、「1日でも早く追いつきたい!」という思いが、かなり自分にプレッシャーをかけていたようです。


 子どもを持ったときから親は子どもの成長に一喜一憂するものだと思いますが、このお母さんのように、母子手帳に書かれた平均曲線の範囲に入っていないということで不安を感じるというようなことは、他にもたくさんありそうです。他の子と比べて言葉の発達が遅いような気がするとか、オムツがまだとれないとか・・・。
 でも、それらの心配はほとんど、他の子との比較をすることで、必要以上に自分に責任を感じたり、逆に子どもが思う通りにならないということでストレスを抱えたりと、親自身が生み出している不安のように感じます。
 親にできることは、他の子と比較して一喜一憂しながら子どもを見るのではなく、自分の子に寄り添い、その子なりに絶対に成長していくと信じ続けていくことではないでしょうか。

 今回は、らくだのプリントをやることで見えてくるその子なりの学び方をちょっと考えてみることにします。

●3ヶ月間同じプリントに向かい続けるという学び方

 小学1年のM子ちゃんは、昨年の11月に入会し、幼児教材から始めて今小1ー3のプリント(+1の足し算、84問)をやっていますが、この小1ー3を始めたのが2月の末で、そのときの時間は目安3分のところ8分23秒でした。
 このプリントは、どの子も乗り越えるのに苦労するのですが、M子ちゃんも例外ではありませんでした。もう3カ月以上になろうとしているのですが、このプリントが始まってから、宿題に持って帰ったプリントができない日が続くようになりました。何とか毎日の生活のなかで一枚のプリントをやることが出来るようになってもらいたいと思って、教室に来るたびにいろいろな提案をし、約束をしていたのですが、なかなか合格できずにいました。しかし、最近になってやっと4分台でできるようになりました。ここまでくればあともう少しなので、先週は新しいやり方を提案しました。

 「ねぇ、M子ちゃん。このままやっているとこのプリントはまだしばらくかかるから、あまり急がないで、もう少し楽なやり方で今週はやってみようか?このプリントは4分より少ない時間でできれば合格だから、これからは4分間だけやってみて、どこまでできたか見てみようか?今日は、そのやり方で何番の問題までできるか試してみようか?」「うーん、じゃあ、やってみる」そう言って始めたところ、84問中71問でした。

 そこで、「今日は、この時間でここまでできたけど、明日やったらどこまでできそう?」と聞くと、「うーん、ここまで」と言って、73問目を指します。「じゃあ、その次の日は?」「78問目」「その次は?」「81問目」「その次は?」「83問目」「じゃあ、その次の日は、84問になって、全部できるかな?]」「うーん、わかんない!」

 わからなくてもいいのです。全部できることを目指して提案しているわけではないのですから。
 1枚のプリントを同じ時間やることで、どこまでできるようになったか、自分の変化を見ることができ、次にやるときのことを予測することもできるという、毎日やることの意味を実感して欲しくての提案だったのです。
 そのM子ちゃん、「毎日1枚、4分やる」ということで宿題を持って帰っていきました。

●お母さん電話して!

 6月14日は、私たち夫婦の25回目の結婚記念日でした。それで、たまには外で食事をということで、新しくできたとなり街のレストランに出かけ食事をしていると、M子ちゃんのお母さんから私の携帯に電話が入りました。

「M子が電話してと言うものですから! 今大丈夫でしょうか?」
「何かあったのだろうか?」と思いながら、「大丈夫ですよ。なんでしょう?」とお聞きすると、「M子に代わります」と…。

 電話口に出たM子ちゃん。開口一番、はずむ声で「合格したー!」
 よほど合格したのが嬉しかったらしく、それを私に伝えたくてお母さんに頼んだようです。そこで、「おめでとう。よかったね。どんな気持ち?」と聞くと、「嬉しい、早くA子ちゃんに追いつきたい!」と言います。(A子ちゃんは同じ1年生の友達で、らくだプリントで学んでいます。)

●その子なりの「今できないことができるようになる」実感を大切に…

 人と競争する学び方とは違う学び方があることを、どう言えば伝えられるだろうかと考えながら、こう提案してみました。「じゃあ、合格しても次のプリント持っていってないからどうしようか?本当は来る日じゃないけど木曜日に教室に来て新しいプリントをやってみる?」と聞くと、「うーん、それはいい。今やっている1−3のプリントをもう少しやってみる。」「わかった、一度合格してもまた次にやって合格するとは限らないから、今週は1−3を合格してもやり続けるということでいい?」「うん!」

 3カ月以上も同じプリントに向かい続け、やると決めたのに宿題に持っていったプリントの枚数ができない日が続きましたが、この3カ月間、M子ちゃんなりにいろいろなことを考えていたのだと思います。それが、ある日突然合格した自分の変化を実感し、わざわざ電話をしてでも合格を伝えたいということになったのかもしれません。
 こんな場面に出会うことができるのも、らくだの指導者の醍醐味ですが、自分の子の学びにじっくりと寄り添ってきたお母さんにとってもまた、我が子の成長をかいま見た瞬間だったのではないでしょうか?

 その子なりの身体の成長のしかたがあるように、学び方にもその子なりの学び方があるのだと思います。「今できないことが、やり続けることでできるようになっていく」そのプロセスはみんな違うのです。周りの大人の役割は、その違いを比較するのではなく、その子なりの学び方に寄り添っていくことではないでしょうか。

一人ひとり固有の課題がはっきりと浮彫りになっていく「らくだ教材」で学ぶと、どの子もその子なりの学び方を見つけていきます。それが、「今できないことができるようになる」につながっているのだと思います。

   今月の「たんたんカフェ」

 月に一度開いている「たんたんカフェ」。今回は、7月24日に真岡で行われる「〈子育て法〉革命」(中公新諸)著者の品田知美さんをゲストにお招きしての講座の準備会を兼ねて行いましたが、宇都宮の子育てサークル「どろんこネットワーク」の方5人も参加し、総勢12名と、にぎやかでした。
「子育てには流行があるんだ?」とか「不安を安心に変えられたらいい…」という、子育てを通して四苦八苦しながらスキルを高めているお母さんたちの姿を見て、つくづく、子育て不安はお母さんたちにとって、最高の学びのタネだなと思えてきました。不安を出発点にして、さまざまの情報を得ながらも、正解はないと知ることで、自分がどう学んでいくかということに関心が向かっていくのではないでしょうか。
 参加者のお一人I・Nさんの感想をご紹介します。

  たんたんカフェ感想   I・N

  自分の苦労を自分で引き受ける

 自分の子育てについて改めて思い出してみると、数多くの思い込みで子育てしていたことを思い出しました。
 いつも頭にあったのは、「この子には幸せになって欲しい」という思いだったけれど、「幸せ」の意味付けがかなり偏っていることが今になると良く分かります。「苦労がないこと、つまづかないこと、楽しいこと」と、今思うと、親が子どもの苦労を背負えると思って私ばかりが苦労していたようにも思います。
 苦労はその子のもの、親はかわれないけれど、寄り添うことや応援することはできる。今はそんなふうに思います。
 親も子どもも、自分の苦労を自分で引き受けながら生活していく。目の前の出来事を大事にすること。人のせいにしないこと。そんな毎日の連続が幸せということかなと今は思います。